お舟


腹の底に疼き出すのは
遠い昔の背骨の記憶と真黒に焼けた額の皮膚か

山に登ったあの日の御船が、月に見惚れて行ったというなら
ベットの中で身もだえる手は彫刻のウサギに連れ去られる

「あろうことかお月さまは、その調子で彼よりも赤い瞳を手に入れろとおっしゃる」

鏡を割ったそれぞれにずさんな文句を喚き散らしたのは
すっかりうらぶれた無人の道の、捨てられ捻じれたシミの成果

やがて野ばらが僕をけしたてて自分の中に埋めようとするときは
優しい指に冷たい爪でポキリと軸を捻れば良い

そう耳打ちしたのは通りすがりの閑古鳥
それでも僕が甘い声を出そうとしたならその時御船は白い空に溶けるだろう